CROSSOVER BOOK | jul 2025

心を動かすスポーツ SportsDocument CROSSOVER BOOK033

田口壮

送球イップス[プロ野球元メジャーリーガー]

アスリート人生に壁が立ち塞がったならば。それは自分が成長するチャンスが訪れたと言うことだ。

CROSSOVER BOOK033

田口 壮

SO TAGUCHI

Special Interview


ゴールデングローブ賞を5度も受賞した、田口壮さん。
プロ野球生活2年目に大きな絶望に襲われました。その状況を如何に抜け出したのか、心の内側に迫ります。

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Special Interview SO TAGUCHI

『怖い、投げられない』

『ボールから手が離れない……!』 オリックスブルーウェーブ(現バファローズ)の遊撃手・田口壮は、 一塁への送球で暴投を繰り返し、一軍での試合出場機会を失っていった。

「自分のプロ野球人生は
たった2年で終わるんだ……。
もう絶望以外の何ものでもありませんでした」


送球イップスに陥った田口。
彼はプロ野球人生最大にして最悪の危機に、成すすべなくうずくまる。

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Special Interview SO TAGUCHI

田口壮は1991年秋のドラフト会議で、オリックスブルーウェーブから1位指名を受け入団。関西学院大学時代、公式戦通算123安打で関西大学リーグ記録を塗り替えるなどの活躍を見せた俊足好打の強肩遊撃手は、即戦力として期待される。事実、ルーキーイヤーの1992年シーズン、田口は開幕スタメンにその名を連ねたのだが……。初回、最初の守備機会で、ファーストにあわや暴投の悪送球。一塁手の好捕に助けられたものの、このときすでに悪魔の影は忍び寄っていた。遡ること数カ月前。ルーキーとして初のキャンプで、田口は首脳陣から送球フォームの改造を命じられる。「以前から送球のコントロールがよくないのは自覚していたので、その指示自体には『まぁそうだろうな』と」しかし、投げ方にこだわるあまり、自然に投げていたときに比べて明らかにぎこちなく、送球までの時間も長くなっていった。

「悪送球の数も、
目に見えて増えてましたね」

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Special Interview SO TAGUCHI

そのため、ルーキーイヤーでは47試合の出場にとどまり、症状が悪化した翌1993年シーズンは31試合。田口は次第に恐怖と不安に苛まれていく。

「また悪送球するんじゃないかという恐怖で、ボールから手が離れないんですよ。治し方がわからない不安も手伝って、心がボロボロになってました」

いつしか、一軍のベンチから
田口の姿が消えた。


光明が見えたのは、1994年シーズンが開幕して間もなくの4月。遊撃手として試合に出場していた田口は、2度の暴投でベンチに下げられてしまう。この年就任したばかりの仰木彬監督(故人)は、田口に一言だけ告げる。

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Special Interview SO TAGUCHI

『もうええやろ』

クビ宣告?だが仰木新監督の真意は違っていた。そもそも送球を除く田口の能力には、主戦力としての評価を与えていたのだ。

「もう送球については諦めろ、
遊撃手には見切りをつけろという
意味だったんですね」


そのうえで、どうすべきかは自分で考えろと突き放された。田口はすぐに慕っていた先輩の福良淳一選手に、苦しい胸の内を相談する。

「軽~く答えを出してくれました。
外野へ行くしかないって」


あれこれ悩むのにはうんざりしていた田口は、外野転向を決意し、仰木監督にその打開策を報告する。「(あまりに早い決断に)真面目に考えとるんか!って怒られましたけど」それでも、結果が仰木監督の怒りを静めた。外野からの送球は内野のそれと違い、的の範囲が広く[だいたい]の狙いでよかったため、イップスの症状が収まったのだ。そうなると、あのイチロー選手が大絶賛する田口の強肩が威力を発揮した。いつしか彼は、オリックス鉄壁の外野陣の一角として、奇跡の復活を遂げるのである。

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Special Interview SO TAGUCHI

時に環境の変化は、
アスリートの秘めたる才能を開花させる。


守備範囲の広い強肩外野手として花開いた田口は、
その後、パ・リーグ連覇(1995年は日本一)、
そしてメジャーリーグでの2度のワールドシリーズチャンピオンに貢献する。

ちなみに現役引退し55歳となった今も、田口の送球イップスは続いているという。

「草野球でも内野は無理ですね」

苦笑いするその顔は、ちょっぴり残念そうだった。

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田口 壮

SO TAGUCHI

Profile


1969年7月2日生まれ、兵庫県出身。西宮北高から関西学院大を経て、92年ドラフト1位でオリッ クス入団。1年目に遊撃手で開幕スタメンを勝ち取る。その後外野手に転向し、強肩巧打で95、96 年のリーグ優勝(96年は日本一)に貢献。2002年に移籍したメジャー・リーグではカージナルス、 フィリーズで2度の世界一に輝く。10年にオリックスへ復帰し、11年限りで退団した。翌12年に も現役続行を目指しリハビリを続けていたが、獲得球団はなく7月31日に現役引退を表明。16年 より古巣・オリックスでコーチを務める。関西学院大学時代、通算123安打(リーグ記録)の成績を 残し、1991年ドラフト1位でオリックス・ブルーウェーブに入団。3年目の外野手転向を契機に、 レギュラーに定着し1995年・1996年のリーグ連覇(1996年は日本一)に貢献した。ゴールデン グラブ賞を5度獲得した名手。